コラムCOLUMN
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有識者の声
みなさんが〈オフィス〉という言葉を聞いて思い浮かべるのは、おそらく一つの大部屋に、デスクがずらっと並んでいる空間だと思いますが、それはビジネスに必要な情報を処理するための仕組み、つまり〈システム〉なのです。このシステムを動かすための空間が〈オフィス〉だったわけです。もう少し付け加えると、会社の組織図を、そのまま各デスクに置き換えて配置したような空間、つまり〈組織を配置する入れ物〉ですよね。昔はそのシステムの中で情報処理をするのが、仕事に占める割合が大きかったのが、 現在では事務作業のような情報処理の仕事はどんどん減ってきています。この、分業型の情報処理という仕事が減ってきているぶん、みんなでアイデアを出し合って臨機応変に、しかも共同で進めていくような仕事が増えていると思います。これを私は『デスクワークからテーブルワークへ』という言い方で説明しています。働く人の目的や作業の種類によってオフィスの形は異なります。それぞれの活動に合わせた、働く人が主体となるワークスペースを作る……今後オフィスは、そうした形にどんどん変化していくし、変化や多様性に適応できる仕組みを経営側が提供して、効果的に働く人を支援する必要があるのではないかと思っています。これを〈適業適所〉と私は呼んでいます。情報処理から知識創造へ仕事の内容が大きく変わりつつある今、オフィス空間も標準的な空間からカスタム空間へ、ソロワーク的な空間からグループワーク的な空間へのシフトが必要なのだと思います。
フェイス・トゥ・フェイスでのコミュニケーションがしやすい環境は大事です。だいたい『部長、ちょっと、いいですか?』と上司に時間をもらうのも、とても気を遣うものだと思います。なので、フォーマルな会議の場以外で、上司と簡単な打ち合わせができるような環境作りというのは、とても重要だと思いますし、そういったコミュニケーションができる環境というのは、ラウンジのような、しっかりと相手の顔が見えるような空間でないと成り立たないのです。少人数での打ち合わせのためのスペースやコミュニケーションエリアのようなものの必要性は、みなさん感じていらっしゃるようで、オフィス空間への不満として挙げられる中で“打ち合わせ場所が足りない”という意見が必ずあります。オフィスへの要望というようなアンケートをとると、上位5位に必ずと言っていいほど入ります。この“打ち合わせ場所が足りない”という状況は、オフィスが働く人の行動を制限してしまっている一例です。 ピーター・ドラッカー(※)は『かつて働き手はシステムのために働いていた』と指摘しました。工場の生産ラインとか、製品の品質管理体系とか、そういったシステムの中で役割をこなすために人は働いた。そこではシステムの性能が生産性の鍵になった。でもこれからは、システムは働き手のために働き、人が生産性を左右するようになるということです。これはオフィスにもあてはまることだと思います。ですが、“こういうオフィスにしたら生産性が上がる”というような単純なものではないのが、この課題の難しいところです。そもそも生産性を上げるのは人間ですし、オフィスはその手助けをする場所でしかない。“もっとコミュニケーションをとりたい”と思っている人たちがいれば、そのきっかけを作るのがオフィスという場所であるべきです。オフィス空間が最も果たすべき機能は〈触媒〉だと私は思っています。
※ピーター・ドラッカー 著書『マネジメント』などで有名な経営学者。2010年にはこの『マネジメント』を題材にした『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーを読んだら』のヒットで日本でも大きな話題になった。
岸本 章弘(きしもと あきひろ)
オフィス家具メーカーにてオフィスインテリア等のデザイン、先進オフィス動向調査、次世代ワークプレイスのコンセプト開発及びプロダクトデザインに携わり、オフィス研究情報誌「ECIFFO」編集長を務める。2007年に独立後、千葉工業大学非常勤講師、京都工芸繊維大学大学院非常勤講師なども歴任し、ワークプレイスの研究とデザインの分野でコンサルティング活動を行っている。
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