<連載>経営戦略としてのワーク・ライフバランス

第1回 なぜ今、ワーク・ライフバランスなのか?

ワーク・ライフバランスの本当の意味とは?

 「仕事と生活の調和」と訳される"ワーク・ライフバランス"。この言葉は「女性のためのもの」や「大企業が行う福利厚生」、「天秤が釣り合うように、ワーク(仕事)とライフ(私生活)に半分ずつに力を入れること」という誤ったイメージを持たれることが多くあります。

 ワーク・ライフバランスとは、ワークとライフのいずれか一方を犠牲にするものではありません。働き方を見直し、短い時間で生産性高く働くことによって、ライフの時間を確保する。心身共に健康な状態になるだけでなく、人脈や自己研鑽による学びを得て、より意欲高く、より生産的に仕事に臨むことができる。「ワークとライフがお互いよい影響を及ぼしあいながらシナジー(相乗効果)を生みだすこと」、これこそがワーク・ライフバランスの本質なのです。(図1)

ワーク・ライフバランスが求められる背景とは?

 急速に少子化・高齢化が進む日本では、2007年から団塊世代の大量退職も重なり、働き手が不足しています。退職した社員の仕事は中堅社員を中心に残された社員の肩に重くのしかかり長時間労働に繋がっています。長時間労働はうつ病などのメンタル不調を引き起こすだけでなく、「定時後に会議が始まるような職場ではもう働くことはできない」といったように出産・育児・介護などのライフイベントに直面し時間制約を抱える社員のモチベーションダウンや場合によっては離職にも繋がり、人手不足に拍車がかかってしまうのです。

 2017年には団塊世代の方が、70代に差し掛かります。70代になると統計的に要介護者の割合が一気に跳ね上がります。「施設に預ければいいのではないか」と思われるかもしれませんが、特別養護老人ホームへの入居を待っている方は全国で約52万人(2013年10月1日時点)。入居したくてもできない人は年々増えており、今後は育児で休む女性の数を介護で休む男性の数が超えるとも言われています。つまり、男女関係なく時間制約を持つようになり、時間制約を抱えた社員は少数派から多数派へと転じるのです。

 コストをかけずに「既存の従業員の定着」や「モチベーションの維持」、「優秀な人材の確保」を行っていくためにはどうしたらよいか。そこで注目を集めているのが、福利厚生ではない経営戦略としてのワーク・ライフバランスなのです。

ワーク・ライフバランス実現の肝となるのは?―「働き方の見直し」

 今いる人材を活用し、今まで以上の成果を生み出すために必要なワーク・ライフバランス。実現のためにはどのようなことが求められるのでしょうか?ハーバード大学のデービッド・ブルーム教授らが提唱した「人口ボーナス(恩恵)」と「人口オーナス(負担)」という考え方をヒントに探っていきましょう。

 70年代の日本は『人口ボーナス期』。若者が多く高齢者が少ないため社会保障費がほとんどかかりません。経済が自動的に発展していく条件が整っていたのです。現在では中国・韓国・インドネシア・タイがあてはまります。

 90年頃、『人口オーナス期』に。高齢者が多くて社会保障費が非常にかかる成熟期に入ります。教育に投資する親が増えて高学歴化し、人件費も高騰し、晩婚化が進んで少子化になっていきます。ここで押さえておきたいポイントは、『人口ボーナス期』は1つの国に一度しか到来しなということ、またそれぞれの期によって求められることは全く異なるということです。 (図2)

 『人口オーナス期』では労働力が不足しているため「なるべく男女共に働く」こと、また人件費が高騰しているため「なるべく短時間で働く」こと、市場が飽和状態の中でも消費者が買いたい・使いたいと思う付加価値を付けていくために「なるべく違う条件の人を揃える」ことが求められるのです。 このことから、付加価値向上のアイデアの源泉となるライフでのインプットが必要であること、そしてその時間を捻出するためにも「働き方の見直し」が必須であることがわかります。

次回は、「ワーク・ライフバランス実現の全体像」と実現の肝となる「働き方の見直し」について詳しく見ていきます。
著者紹介
村上 健太

株式会社ワーク・ライフバランス ワーク・ライフバランスコンサルタント

村上 健太(むらかみ けんた)

【経歴】

2008年 SBI損害保険株式会社入社 管理本部配属。
2012年 株式会社ワーク・ライフバランスに参画。
仕事を抱え込む傾向にある長時間労働のクライアントに対し、効果的なアドバイスを行うことで定評がある。
http://www.work-life-b.com/

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