有識者の声

社内におけるコミュニケーションの効用

挨拶は一番シンプルなコミュニケーション

 業種や規模を問わず、元気のある会社では、挨拶がしっかり行われています。社員同士はもちろん、部外者である私や玄関口に立つ守衛さん、お掃除のおばさんにまで、すれ違う人たちが必ず挨拶をしているのです。挨拶って一番シンプルなコミュニケーションですよね。“おはようございます”と交わすだけで、心の距離が縮まって “調子はどう?”とか“そう言えば、あの件なんだけど……”と、次の言葉が出やすくなる。偉い人たちの多くは、若い人から挨拶をしてくるのが当たり前だと思っていて、上司と部下の関係性が、オフィス内の障壁になります。とは言え、挨拶は“役職でするもの”ではなく、“人としてするもの”。元気な会社は、役職や年齢に関係なく、人として接する瞬間を大切にしているのです。もちろんオフィスの中では、それぞれが立場をわきまえなければならない時があるでしょう。でも、上司・部下を越えて、人として言ってもらった一言に、部下たちは救われます。部下がしんどい気持ちでいるかどうかだって、普段から挨拶を交わしていれば、容易に気付くことができる。だからこそ、相手の顔を見て、目を見て挨拶することはとても大切であり、その事ができている会社はいい会社になっていくのです。

 “コミュニケーションが取りづらい”“人間関係がうまくいかない”と最近よく言われるのは、日々の業務の生産性や効率を上げることにこだわりすぎて、無駄をどんどん無くしていったことが大きいと思います。講演などでいつも申し上げるのが“無駄話、無駄な空間、無駄な時間ほど人間の心の距離感を縮めるのに大切なものはありませんよ”ということで、無駄な部分があることで生まれるコミュニケーションはたくさんあります。書類を提出するにしても昔は“今持って行っても大丈夫かな?”と、上司の様子をうかがったり “お願いします”と持って行って、そこの会話から何かが生まれたりしました。今はメールを送るだけで終わってしまうことが多い。コミュニケーションが生まれるきっかけが、本当に少なくなってしまったんです。

昭和の日本企業の特徴だった“無駄”を、
経営に取り入れている海外の企業は、少なくありません。

 実はかつての昭和の日本企業の典型的な風景に、このコミュニケーション向上のヒントがあります。例えばアメリカ企業のオフィスで真っ先に思い浮かべるのは、デスクがパーティションで仕切られて、労働者が集中して働けるようになっている風景ですが、日本は基本的に大部屋主義。この会社にも給湯室みたいなのがあって、そこに集まったOLたちが無駄話をする……そんな風景が、昭和の企業にはありました。また、かつて世界中が日本企業の好調の原因を探るために、その経営方式を研究した結果出てきたのが、今は否定されている終身雇用や年功序列です。

 つまり、昭和のオフィスや企業経営が、日本のビジネスマンの元気の土台となっていたのです。残念ながら、今の日本はそれらを否定して、アメリカ式を取り入れることに躍起になっていますが、皮肉にも海外では、かつての昭和の日本企業の特徴が、再評価されている。それらを取り入れた経営を行う企業が、海外で増えているのです。

 例えばオフィスの中に公園のようなスペースを設けたり、パーティションを外して大部屋にしたり、オフィスの真ん中にカフェを作ったり……これは、現代風給湯室ですよね(笑)。そんな場所にみんなが集うことで、異なる部署や役職などを超えたコミュニケーションが生まれるのです。そういった“無駄”を会社に取り込む環境を作るには、企業のトップやチームのリーダーが“そういう会社にしよう”と思わない限り、正直難しいかもしれません。でも、自分の半径3mであれば、なんとか変えることはできるはず。とにかく挨拶はする。部下に無視されてムッときても、やり続ける(苦笑)。メールで書類を送るだけじゃなくて、“今から送ります”と直接相手に話しかけてみる。そういう意味では、この“Sound Design for OFFICE”は、コミュニケーションを生むよいきっかけになるのではないでしょうか。何かの拍子に“この曲、好きなんだよね”って誰か呟いて、そこから話が広がる。そんな“無駄”が、働く人たちを元気にすると思います。

河合 薫
河合 薫
Kaoru Kawai

健康社会学者・博士(Ph.D.、保健学)
1994年第1回気象予報士試験に合格。以後、気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」等で、独自の気象情報を提供。2004年東京大学大学院医学系研究科修士課程(健康社会学)修了後、同大学院医学系研究科博士課程に進学。07年博士課程修了。博士(Ph.D.、保健学)を取得する。東京大学や早稲田大学で教鞭をとるほか、現在は健康社会学者として、産業ストレス、キャリア発達等の研究をするかたわら、講演・執筆・TV出演等の活動を行っている。